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 日本群読教育の会 会報 34号   2003. 4.16

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 ●目次●
   お知らせ 方針と規約と役員の推薦
   会員よりのうれしいお便り
   大会記念号の実践記録
      元気に群読「あめ」    加藤 恭子
       重水実践に学ぶ      片桐 史裕
      家本実践に学ぶ      毛利 豊
      新田実践に学ぶ      重水 健介
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 ◆お知らせ◆
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 今年度の方針、規約について、メールによる役員会の承認を得ましたので、
お知らせします。

★2003年度の方針★
 1 組織
  a 会員の拡大に取り組みます。
  b 各県に群読の会の支部をつくります。今年度、4支部以上をめざします。
  c 役員のなかに「講師団」を組織し、その研修会を開きます。

 2 活動
  a 由布院大会を成功させます。
  b 由布院大会を記念して、会員の群読実践記録集を出版し、その普及をはかります。
  c 各地において群読の研究会を開きます。
  d インターネットをとおして、会報及び脚本集を発行します。
  e 本会のHPのますますの充実をはかります。

 ★規約★

第1条(名称)  この会の名称を「日本群読教育の会」とする。
第2条(活動)  本会は設立の趣旨にもとづき次のような活動にとりくむ。
         @群読についての研究
          A全国各地の群読実践の発掘と紹介
         B全国各地での群読学習会の開催
         C講師の派遣
         D出版活動
         Eその他必要な事業
第3条(会員)  本会の趣旨に賛同できる人はだれでも会員になることができる。
          入会希望の旨を役員に伝えることで加入手続きとする。
第4条(総会)  本会は全会員により年に1回定期総会を行い、次のことを協議する。
  @前年度の活動の総括
  A今年度の活動方針・内容
  B次期全国大会開催地の決定
  C役員の承認        
  Dその他必要な事項
第5条(役員)  本会には次の役員をおく。役員は総会の承認を得て決定される。
         任期は1年とし、留任を妨げない。
         代表   1名:本会を代表する任務を受けもつ
         事務局長 1名:事務局のしごとを統括する
         事務局員 複数名:本会の事務的なしごとを受けもつ
         常任委員 複数名:各地にて本会の世話役として活動する
  第6条(全国大会)本会は1年に1回全国規模の群読研究集会を開催する。(以下、全国
         大会と称す)開催地は総会にて決定する。
第7条(改廃) この規約の改廃は事務局・常任委員会が提案し総会の承認を得る。
第8条(実施) この規約は2002年7月30日より実施する。

 ★役員の立候補・推薦の受付★
 本会の役員をやりたい方、また、推薦したい方があればお知らせください。
 現在、坂尾知宏(宮崎)・加星あづさ(大阪)・吉田靖(長野)・押木和子(新潟)・
村末勇介(鹿児島)鳥飼美竿(鹿児島)各氏が推薦されています。

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 ◆  ◆会員よりのうれしいお便り◆
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 会報2号連続ありがとうございます。「源平盛衰記」とっても参考になります! 同時
で読んだり、係り結びを強調したり、「修羅場読み」や「楷書読み」、ほんまに面白いや
ろなあと思います。

「扇の的」の群読の時は、私も群読の術が全くつかめてなかったため自由に工夫させて読
ませたところ、お能の謡みたいに独特な節をつけてナレーション部分を読んだ班があり
、 仰天しました
 ふだん国語というと眠ってるような子たちが、アイデアを豊富に持って熱心に取り組む
姿勢を見せてくれるので 群読っていいなと思います。

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  ◆大会記念号の原稿◆
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 ★元気に群読「あめ」   加藤 恭子★
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<解説>
 わたしが、初めて群読を知ったのは、教師人生1年目の学習発表会だった。わたしには
劇の経験しかなく、(どうしよう、何をすればいいんだろう)そんな時に、手にしたのが
群読の本だった。踊りの指導は自信がないし、他には何も思い浮かばない。子ども1人1
人を主役にしたい、まとまりのよさもみせていきたい。「よし、群読だ!」と思った。そして、
選んだのは「あめ」(山田今次)。
 その時は、その詩の持つ意味をじっくり考えることもなく、ただ、「言葉(音)がおも
しろい」「じっくりやっても子どもたちがあきないだろう」「元気よくやれそう」ということで
、この詩を選んだのだった。
 最初の日、みんなで「あめ」の詩をふつうに読んで、どこがおもしろいかを子どもたち
に出させた。「『ざかざん』とか『ざんざか』とか、いっぱい雨の音があるところ」「繰
り返しがいっぱいあっておもしろい」
 子どもたちも興味をしめしたので、ますます意を強め、「みんなが主役になれるよう、
先生が脚本作るから。でも、やっていく中でこうした方がいいってところはみんなで変え
ていこうね」
 わたしの頭の中には「元気のよい3年生にふさわしい群読」という図しかなかったので、
ひたすら「元気よくやろう」と考え、チュエーションも「学校帰りの子どもたちが雨に遭
う」と設定し、登場人物も「学校帰りの子ども」と「あめの子」ということにした。
 16人に合わせて群読のシナリオを作った。 練習に先立ち「16人の誰かが欠けても
『あめ』はできないし、自分を信じて、友だちを信じて声を合わせていこうね」と話した。

  「あめ」   山田 今次       

   配役  学校帰りの子ども @〜G、
       あめの子     @〜G
         
 チャイムの音、子どもたちが舞台そでから出てくる。舞台中央で固まっておしゃべり。
 その背後をあめの子たちがこっそりと取り囲む。

   あめ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
   ども ● ● ● ● ● ● ● ●



3.子どもたちの感想とその後
 『あめ』すごくきんちょうしてかっちかちになったよ。終わって、ばっちゃんが『うま
がったな。』って言ってくれてとてもうれしかったよ」
「ぼくたちの出し物は『ぐんどく』っていって、歌みたいでとてもおもしろかったよ」
「すわってスポットがあたって、あっというまにおわった気がした。この学習発表会はわ
すれないと思います」
「16人で全校で一番すくないけど、うまくできたとおもうよ。家に帰ったらほめられた
よ」
「いつもやってるようにやったらきんちょうしなかったよ。家に帰ってお父さん、お母さ
んにほめられてうれしかったよ。来年は何をやるのか楽しみ」
「一番どきどきしたのが『あめ』だったの。わたしがんばったんだけど、やっぱり声があ
んまし出なかったの。でも、みんなでがんばったんだよ。来年の学習発表会もみんなとい
っしょにやりたいけど、ひっこすからできないかな。また楽しい学習発表会にしたいな」

 <発展>
 この取り組みで、子どもたちは「声を合わせる楽しさ」を体得したようだった。もとも
と歌や音読が好きな子どもたちだったが、合唱では輪唱や二部合唱に意欲的に取り組み、
国語の授業だけでなく、日直や学級会、お楽しみ会の司会なども声をそろえたり、群読形
式で行ったりするようになった。声の小さい人がいればそろえて言うことで助ける、1つ
のことをみんなで言うことで一体感が味わえる、びしっと決まったあとの達成感・・・そ
ういったものが子どもたちをまとめていった。
 わたしが感じた群読のよさ、それは「一人はみんなのために、みんなは一人のために」
を、身を持って体験させられるということだ。群読は1人の出番と仲間との出番があり、
誰かが欠けては成り立たない。
 その後、言語不明瞭で口数の少ないM子を中心に、有志数名で放課後に取り組んでいる。
短めの詩をゆっくりとしたペースでみんなで声を出して読む。誰かが読んでM子が続けて
読む。M子が読んで誰かが続ける。声を出すことすらあまりないM子が楽しんで声を出せ
るように、そんな取り組みを、群読を通して行っている。M子のしゃべり声がだんだんと
大きくなってきた。そんな変化がうれしい。
 声を出す楽しさ、仲間と力を合わせる楽しさ、そういったものを今後も群読を通して子
どもたちに伝えていきたいと思う。

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 ★山中実践に学ぶ   片桐 史裕★          
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    山中先生の実践を読むと、表現しているときの子どもたちの姿が目に浮かぶ。わたしの
息子は現在2歳で、電車にハマっている。「がったん」「ごっとん」という擬声語にはす
ぐ反応する。山中学級の小学3年生の子どもたちの中にもきっと電車の魅力にとりつかれ
たことのある子が少なからずいるはずだ。この群読はきっとそういう子どもたちの心をく
すぐったことだろう。
 その意味で、第一に 教材として、擬音語だけの詩をとりあげたことがすぐれていた。
 擬音語だけの詩を表現するには、想像力が必要だ。その擬音語は貨車のどんな状態なの
か考えながら演じなければならない。列車が連結する音、走る音はふだん聴き慣れてい
て、 聞いていて心地良いものなので、子どもたちはその情景を想像しながら楽しく表現したの
ではないだろうか。「ここはは連結」「ここはゆっくり走行」「だんだん早くして」と自
分を列車に擬して演じたのだろう。からだもしぜんに反応して、自ら貨物列車と一体化し
て表現したと思われる。
 子どもの感想に「ぼくは練習してる時、本当にかもつれっしゃに乗ってるかと思いまし
た」とある。音声で演ずる言語表現とからだで演ずる身体表現が一致するところに群読の
楽しさがある。
 第二はグループごとに1つの貨車を演じていること。これは分担の仕方として理想的で
ある。グループ内で仲間と協調して、さらに、他のグループと協調し、それら全体として
貨物列車を表現するというしくみである。個→グループ→学級というように、協調の階梯
をつくって子どもたちの能力を高めている。これはすぐれた演出力である。
 第三は、ゲーム的な要素があること。「おいかけ」を入れたところ(a〜g「がちゃあ
あん/がちゃああん/……」)が見事である。ここは単純にみえるが、難しい部分であ
る。 しかし、ゲーム的なので、子どもたちは熱中し、成功させようとする。成功すると達成感
が生まれる。達成感が生まれるとそれを他の人に聞いてほしいと思うのはしぜのなりゆき
である。
 第四は「自分たちの表現を聞いてほしい」と思える「学級の文化」にまで子どもたちを
引っ張って行ったことだ。「すぐれた学級はすぐれた文化をもつ」地点に高めた、山中先
生の指導性の、ひときわ光る実践であった。

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★重水実践に学ぶ  片桐 史裕★           
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 重水先生の実践を読み、群読の新たな教育的意義に気付いた。それは群読表現者の気持
ちのまとまりである。群読というと表現そのものに意識が向けられがちである。シナリオ
を上手に演じられたか、声は出ているかなど。しかし重水実践の群読はそのことだけが目
的ではないと感じた。
 この実践の目的は生徒会執行部が群読によりまとまることであり、執行部のメッセージ
と執行部のまとまりを生徒一人ひとりに伝えることであろう。これは言語表現教育の枠を
飛び出て生徒指導にまで及んでいる群読実践と言える。
 表現だけでは生徒会執行部の決意は伝わらない。決意を上手に伝えるためには執行部が
ばらばらではいけない。執行部がまとまるために群読で表現する。このような歯車がうま
く回った実践だったと思う。そして「決意を伝える」「執行部がまとまる」「群読で表現
する」という3輪が相乗効果を生み出した実践だったのではないか。
 群読のシナリオも難しい技巧はない。全校生徒に決意をアピールするにはよけいな技巧
は必要なく、むしろシンプルなものの方が効果があったのだろう。ラストに向かい「太陽」
の語の連呼により盛り上げていく。クライマックスの風景がシナリオを読むだけで頭に浮
かんでくる。
 群読でみんなの決意を表現することにより、まさに「魂」が「言葉」にのり、群読は
「言霊」となったのではないか。だからこそ「執行部のやる気を力強く示」すことができ
たんだろうし、聞く側も「好感をもって」迎えることができたのである。人は誰でも気持
ちが素直に伝われば自然と感動するものだ。
 「以来、生徒会の集会には必ず群読が登場するようになった」とある。この実践は滑石
中学校の1つの「文化」を創造した原点と言えると思う。

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 ★家本実践に学ぶ    毛利 豊★
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 群読教育の創始者による草創期の実践である。汲めど尽きぬ教訓の中でも、特に次の四
点を学びたい。
 第一に、「素材文」の選び方である。教科書教材をそのまま群読脚本に変えるのでは、
内容的には二番煎じになる。かといって全く知らないものでは、馴染みがうすい。しかし
教材文の関連や発展であれば、ちょうど好都合となる。しかも地域教材は生徒の興味・関
心をひきやすい。ふだん何気なく見ていた文物に潜むドラマに目を開かれるからである。
さらに、この素材文には、群読特有の技法を招き入れやすい要素が含まれている。異文平
行読み・漸増法の群読独特の技法は、その内容から必然的に生まれ、気取り・係り結びの
強調・文末の盛り上げと落とし等の音声的指導にも最適である。このような三拍子そろっ
た素材文を探し、生徒に提供したいものである。
 第二に、「音声芸能の特質」について、指導者が素養を積んでいることである。氏は幼
少の頃から伝統芸能に馴染んで来たといわれる。詩吟・謡曲・唄い・歌舞伎・浄瑠璃・早
歌・万歳・平家琵琶…に精通し、西洋音楽や演劇にも通暁しておられる。この域には誰も
が到達できるものでもないが、ふだんから注意し、機会をとらえては親しみ、学ぶことな
らできる。
 第三に、子どもへの「優しいまなざし」がある。国語の学習を、認識面だけでなく技能
面からも発想し、国語嫌いの子どもにも出番を用意している。それは、個々の生徒の性格
や声の特質への配慮にもつながっていたことであろう。
 第四に、「発想法と創造意欲」である。多くの伝統芸能に棹さして最新の独創を産む様
は、あたかも無数の苗木をやがては大叢林に化育する造化のわざを思わせる。合唱・交響
楽等と融合した独自な「交響組曲」に高め、さらに戦後教育に合唱・群読・集団遊びの文
化活動を創出し、普及させた功績は大きい。
 人の物まねでない独創的な発想法と、あくことのない旺盛な創造意欲や態度をこそ我々
は学びたい。
 一粒に後代の万粒がこもる玩味すべき原点である。

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 ★新田茂子さんの実践に学ぶ 重水 健介★
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 新田さんは地域の群読講座に自ら参加し、そこで得たものを長年の取り組みであるボラ
ンティア活動に生かしている。この実践に学ぶことは多い。
第一に、相手を思いやる言葉である。
  美しい響きのある言葉を使って、相手を配慮しながら話すことで、お互いの心が通い
合うと新田さんはいう。この気持ちのなんとあたたかいことか。冷たい言葉や荒い話し
方、自分本意な接し方ではうちとけた関係はできない。人と交わるときの大切なマナーを
指摘している。
第二は、群読の知的な効用である。
「声を出すことで言語能力の衰えを予防する」という方針が鋭い。群読は、各自が役割を
持ち、まわりと息を合わせながら声を出す活動だが、ここに記された参加者の姿から、そ
の方針の正しさがわかる。
第三は、群読の体力面での効果である。
一定の時間、声を出すことは、歩くことに匹敵する運動量である。とくに、声量を必要
とする作品は、ほどよい運動になっていることがわかる。
第四に、年間計画の緻密さである。
 群読活動の山場に敬老祝賀会を位置づけ、そこまでの過程で歌舞伎や狂言、短歌や詩な
ど様々な朗読を取り上げている。これは、参加者のモチベーションを高める、すぐれた実
践計画として参考になる。
第五は脚本に合った的確な役割分担である。
「まつりだわっしょい」では、男性十名がソロを受け持っているが、祭りの開始を勇壮に
告げる情景が浮かぶ。また、他のパートは、全員で読んでいる。これは、脚本イメージ
を損なわず、参加者の年齢や構成を配慮した分担として参考になる。
 第六に、演出の工夫である。
 発表時の衣装。拍子木、切り火などの小道具。群読と歌をメドレーでつなぐアイデア。
どれも群読を効果的にするユニークな工夫である。
学校以外の場所にも群読の活動場面を広げていくひとつの方向性を示す実践であった。