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日本群読教育の会 会報 32号 2003.
4.8
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●目次●
編集前記
会員よりのうれしいお便り
大会記念号の実践記録
中学校 衣笠の合戦 源平盛衰記より 家本芳郎
姫野実践に学ぶ 毛利 豊
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<編集前記>
記念号の編集もいよいよ大詰めを迎えました。書名は「楽しい群読活動」としたらと思
います。「声の文化 群読活動」「群読教育実践集」いろいろ考えられます。「こんなネ
ーミングはどうかな」とお知らせください。
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◆会員よりのうれしいお便り◆
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いつも会報、ありがとうございます。今日から新しい学校です。中学一年生 二百四十
人をもたせていただくことになりました。私は、文法と漢字と古典をもつのですが、中二
で平家物語の群読をしたように、中一で竹取物語の冒頭を挑戦させれたらいいな、と思っ
てます。古典の群読、楽しくできるように、もっと勉強します
会報ありがとうございます。週末に1日でも花見をしたいと思うと、いつでもこの時期
はすざまじい忙しさです。そんな呑気なことを言っていられるのも平和だからですね。人
権と同じに平和権をぜひ実現したいと思うこのごろです。お礼まで。
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◆大会記念号の原稿◆
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◆中学校 衣笠の合戦 源平盛衰記より 家本芳郎◆
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<解説>
古典の物語教材にはよく「平家物語」が出てくる。「扇の的」など代表的な教材である。
わたしの勤務していた中学校は「源平盛衰記」に登場する源氏方、三浦大介の居城、衣笠
城のすぐ近くにある。教室の窓から衣笠城がよくみえる。親近感もあるので、二年生では、
「衣笠の合戦」をとりあげている。
<演出ノート>
1 二つの生活班を一学習グループにして、グループごとに分読して表現させた。一グ
ループは12〜14名である。分読はあまりこま切れにせず、基本的には、一文を単
位に分読するようにすすめた。
2 読みでは、「朗々と読む」「固有名詞の楷書読み」「修羅場読み」「大仰に気どっ
て読む」「係り結びの強調」「文末表の工夫。盛り上げと落としの使い分け」に留意
させた。
3 子どもたちはいろいろ工夫して表現したが、とくにおもしろかったのは、次の二つ
である。
@漸増法を用いた表現
M これを迎える三浦の勢、城主三浦大介義明を大将軍に、その子義澄・与一をは
じめとして、和田・佐原・佐野・藤平・奴田党など、わずか四百五十三騎。
右を次のように分読した。M=三浦方のなかから6人を選び、1〜6までナンバーをふ
り、次のようにわりふりして読んだ。+は追加していく読みで、「+2」は「1と2で読
む」とになり、声の量が次々にふえていくことで、三浦方の人数が増えていくことを表現
していた。
M全員 これを迎える三浦の勢、
1 城主三浦大介義明を大将軍に、その子義澄・与一をはじめとして、
+2 和田
+3 佐原
+4 佐野
+5 藤平
+6 奴田党など、
M全員 わずか四百五十三騎。
A異文平行読みを用いた表現。
MH そののち双方、たがいに命を惜しまず、さしつめ引きつめ、駆け出で駆け
出で、追いつ追われつ、進み退き、組んず組まれつ、討ちつ討たれつ、い
ずれ劣れりともみえざりけり
MH=平家方+三浦方の読み手をabcdefの6つにわけ、「さしつめ引きつめ、駆
け出で駆け出で、追いつ追われつ、進み退き、組んず組まれつ、討ちつ討たれつ」を異文
平行読みをした。異文平行読みとは異なる文を平行して読む読み方である。
MH そののち双方、たがいに命を惜しまず、さしつめ引きつめ、駆け出で駆け出で、
追いつ追われつ、進み退き、組んず組まれつ、討ちつ討たれつ
┌a さしつめ引きつめ さしつめ引きつめ さしつめ引きつめ…………………
├b 駆け出で 駆け出で 駆け出で 駆け出で 駆け出で………………………
├c 追いつ追われつ 追いつ追われつ 追いつ追われつ 追いつ追われつ……
├d 進み退き 進み退き 進み退き 進み退き 進み退き 進み退き…………
├e 組んず組まれつ 組んず組まれつ 組んず組まれつ 組んず組まれつ……
└f 討ちつ討たれつ 討ちつ討たれつ 討ちつ討たれつ 討ちつ討たれつ……
MH いずれ劣れりとも見えざりけり。
こう読むと、あちこちで戦いがくりひろげられている様子が表現できた。
なお、異文平行読みには、次のような読み方もある。太字は強調。
┌a さしつめ引きつめ、駆け出で駆け出で、追いつ追われつ、進み退き、組んず組
│ まれつ、討ちつ討たれつ
├b 駆け出で駆け出で、追いつ追われつ、進み退き、組んず組まれつ、討ちつ討た
│ れつさしつめ引きつめ
├c 追いつ追われつ、進み退き、組んず組まれつ、討ちつ討たれつ、さしつめ引き
│ つめ、駆け出で駆け出で
├d 進み退き、組んず組まれつ、討ちつ討たれつ、さしつめ引きつめ、駆け出で駆
│ け出で、追いつ追われつ
├e 組んず組まれつ、討ちつ討たれつ、さしつめ引きつめ、駆け出で駆け出で、追
│ いつ追われつ、進み退き
├f 討ちつ討たれつ、さしつめ引きつめ、駆け出で駆け出で、追いつ追われつ、進
└ み退き、組んず組まれつ
<読みの分担>
T=タイトルと結末を読む。2名
H=平家の勢を表現する。 数人のグループ
M=三浦党を表現する。 数人のグループ
O=三浦大介を表現する。 ソロ
Y=三浦義澄を表現する。 ソロ
<脚本>
T1 源平盛衰記 巻の二十二より 衣笠の合戦
T2 ときは治承四年八月二十九日。
H 平家の勢、つごう三千余騎、衣笠城を取り囲む。
M これを迎える三浦の勢、城主三浦大介義明を大将軍に、その子義澄・与一をは
じめとして、和田・佐原・佐野・藤平・奴田党など、わずか四百五十三騎。
O 衣笠城主三浦大介義明、今年七十九にありけれど「命を惜しむは人にあらず。いで
いで駆け出で最後の戦さしてみせん」とぞ下知し給う。
M されば、二十騎、三十騎、馬の鼻並べて駆け出でつつ、案内を知らぬ者どもを、
悪所悪所へ追い詰め討ちてんげり。
MH そののち双方、たがいに命を惜しまず、さしつめ引きつめ、駆け出で駆け出で、
追いつ追われつ、進み退き、組んず組まれつ、討ちつ討たれつ、いずれ劣れりとも
見えざりけり。
O 大介味方に向いて大音声にて叫びけるは「父死ぬれども子かえりみず、子討たるる
とも親退かず。乗り越え乗り越え、敵に向かうことこそ坂東武者の習いなれ」
MH しばし、敵も味方も暇なきさまに、今日を限りと戦いたれど、多勢に無勢、日も
ようやく暮れければ、三浦氏、戦さに疲れ果て、弱々しくとぞ見えたりけり。
O ここに大介、子孫郎党を呼びいえて「戦さはすべきほどにしつ。われもまた見るべ
きことのほどを見つ。われをここに捨て、とくとく落ちて行け」と、直垂の袖をしぼりて言いたりけり。
Y かくて義澄、泣く泣く主君源頼朝を尋ね奉りて、久里浜の岬より船に乗り、安房の
方へぞ落ち行きけり。
T2 ここに大介討たれ、衣笠城ついに落城せり。
<発展> 漢字や文法は嫌いだが、読むことは大好きという子どもに陽があたり、熱中し
て読んで いた。これまで、国語の嫌いだった子どもが、廊下ですれ違うと「先生、こんど、
いつ群 読をやるの」と聞いてくるようになった。
この「衣笠の合戦」は、本校の生徒会が作成した「交響組曲 よこすか」にも使われ、
本校群読活動の一つの象徴的な作品となった。
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◆姫野実践に学ぶ 毛利 豊◆
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学級の1年間の締めくくり(総括)を、群読で行ったという特異な実践である。そこに
は、子どもたちの深い思い出が、教師の巧みな技によって凝縮されている。学ぶべき点は
たくさんある。
第一に、ネーミングである。「2年○組の思い出」でもなく「1年間を振り返って」で
もない。「これがみんなの1年間」―テーマ性がダイレクトに打ち出されていて、魅力的
である。子どもたちの「がんばろう」というやる気をかきたてている。
第二に、年間の思い出を、四季折々の風物と合わせて記したことである。それによって、
その時々のにおい・吹く風の感触・食べたものの風味までも、子どもたちは思い出したの
ではないか。そして、泣き出したくなるような郷愁にさえもかられたのではないかと思われる。
第三に、擬声語・擬態語を意識して取り上げていることである。これはいかにも群読に
ふさわしい。コーラスを効果音的に使うことが多いからである。
第四に、同じような言葉も、よく見ると微妙に変化がつけてある。一字違い・回数違い・
逆順・アクセント付けによる対話調への変化など、様々である。
うっかりは読ませない集中力つけの他、聞き手に対しても飽きさせない効果を持っている。
第五に、グループの配列である。A〜Dの配置は、聞く側にとって大きな印象の違いと
なる。脚本をつくるときには、留意したい点である。
第六に、これがもっとも学びたい点であるが、生徒と教師とで「合作」している点であ
る。これなら、無理なく、誰でも作りやすい。子どもにアンケートをとり、盛り込む題材
を決め、あとは少し詩心のある教師なら脚本化できる。すべて教師がしなくてはとか、す
べて子どもから出て子どもで完結しなくてはと、気負う必要もない。
やりやすい形で、出来るところから、子どもの力も借りて、いっしょにつくっていく。
この実戦的な態度をこそ学びたいものである。